彦市   » 依佐美送信所(改訂9版) » 高周波回路

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上図は、高周波発電機の出力から送信搬送波成形までの回路図です。

当時の世界情勢では、世界主要国間の直接情報交換が可能な無線通信方式はトップレベルの技術でした。

高周波発電機は世界で3方式以上あったようですが、それぞれ長所短所があり、依佐美送信所はドイツのテレフンケン社の方式でした。

この方式では、外形と回転数からの設計上の制約があって、後述の3逓倍システムと組み合わされて機能していました。

依佐美送信所は世界最大級で、超長波送信所としては最後に建設された施設であったようです。

特徴は、発生周波数の高安定制御およびトリプラー装置とフイルターユニットの組み合わせによる周波数3逓倍システムです。

まず、筆者の理解に沿って、トリプラーの働きを説明します。

トリプラーは高磁性体のドーナツ状薄板を多数重ねた磁気鉄心にコイルが巻かれており、外部直流電源による励磁用コイルが付属した変形型の単相単巻変圧器です。

磁気飽和状態で使用すると、コイルのリアクタンス(等価的交流抵抗値)が極端に低下して、空芯コイル状態と同様な特性となって、出力電流ガ増大すると台形波に近い歪波形電圧が発生します。

この歪電圧には、第3調波を多く含む特性があります。

その結果、基本波に対して位相が180度遅れた基本波の3倍の周波数成分だけを取り出すフイルター回路と結合して、目的の周波数電源とすることができます。

 

起動時には、起動用励磁コイルに直流30V 400 A を流して、トリプラーの鉄芯を磁気飽和状態にします。

すると、メインコイルLt のリアクタンスが空芯状態の値まで低下します。

発電機の出力は、電圧が 1,575 V で、周波数が 5,814 Hz ですが、誘導子型発電機の原理から波形に高次周波数が重乗していますので、Lp Cp で構成された同調回路で 9,200 Hz 以上を除去します。

基本周波数に同調する入力フィルター、Lp LaLt の合算値と Ca で構成された同調回路により、発電機が規定の周波数(回転数)に達するとトリプラーへ電流が流れます。

そして、発電機との間で大きな無効電流が流れて、コイルの抵抗損失とトリプラーの磁気損失で約 60KW の電力損失が発生します。

この状態での誘起電圧は、基本波に対して180度遅れており、磁気飽和のために第3高調波成分を30%近くと第5高調波成分を5%近く含んだ台形状の歪み波形です。

トリプラーの出口には、第3高調波に同調する出力フィルター、Lb Lo 合算値と Cb で構成された同調回路により、17,442 Hz の周波数成分だけが流れます。

また、僅か含まれる第5高調波を、バイパスフィルター、LbLc , CbCc で構成された同調回路で除去します。

トリプラーが安定すれば、外部励磁回路は切り離されます。

アンテナへの出力電流で磁気飽和状態を維持できるからです。

また、トリプラー内部では磁気損失による大量の発熱がありますので、内部の絶縁油を隣接の熱交換器へ還流させて水で冷却していました。

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上図は、高周波発電機出力が 300 KVAのSPACE運転時における回路の電流値と素子に誘起する電圧値を併記してあります。

このSPACE時とは、信号送出待機時であり、発電機は50%出力となっています。

アンテナの等価回路(SPACE時の動作)と合わせてご覧ください。

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上図は、高周波発電機出力が 600 KVAのMARK運転時における回路の電流値と素子に誘起する電圧値を併記してあります。

このMARK時とは、信号送出時に電鍵を押し下げた時、即ちキーイング動作時であり、発電機は100%出力となっています。

アンテナの等価回路(MARK時の動作)と合わせてご覧ください。

同調回路のコンデンサに大きな電圧が発生しますので、同一仕様のコンデンサ多数を直並列に組み合わせて、必要とする性能を発揮させていました。

Cp , Ca , Cb , Cc は、いずれも油入りマイカコンデンサーで、0.1 μF で電流容量 87.5 A、耐圧 4 KVのものに統一されていました。

送信所の解体時には 295 個のコンデンサが存在したと記録されています。

この数の多さに驚きですが、下記の組み合わせは、筆者が試算したもので現物を確認したものではありません。

Cp は、 79 個を並列接続で、許容電圧 4 KV 、合成容量 7.89 μF 。

Ca は、34 個を並列接続で3.4 μF、34 個を並列接続で 3.4 μF、37 個を並列接続で 3.7 μF、更にこの 3 組を直列接続して、許容電圧 11.7 KV 、合成容量 1.165 μF 。

Cb は、7 個を並列接続で 0.7 μF、7 個を並列接続で 0.7 μF、8個を並列接続で 0.8 μF、8 個を並列接続で 0.8 μF、更にこの 4 組を直列接続して、許容電圧 15.6 KV 、合成容量 0.1865 μF 。

Cc は、2 個を並列接続で 0.2 μF、2 個を並列接続で 0.2 μF、更にこの 2 組を直列接続して、許容電圧 8.0KV 、合成容量 0.1 μF 。

この他に、信号送出回路のコンデンサ CK が、25 個を並列接続で2.5 μF、25 個を並列接続で 2.5 μF、26 個を並列接続で 2.6 μF、更にこの 3 組を直列接続して、許容電圧 11.8 KV 、合成容量 0.855 μF 。

以上により、コンデンサの合計数は 274 個となります。

295 個との差 21 個は予備品であったのか、或いは、複式アンテナに改造されて素子の定数に違いがあるのか、定かでありません。

この 295 個はすべて碍子に載せた状態で床と絶縁して使用されていました。

トリプラーには、磁化電流供給用の励磁機(M - G)が設備されていました。

直流 30 Vで 400 Aが供給できました。

トリプラーからの誘導高周波が逆流して、励磁機のブラシ部で火花が出ないように、起動用回路に高周波阻止コイル(HFC)が挿入されていました。

下記の項目をクリックすると関連説明があります。

5-7.高周波回路の電圧と電流

5-8.トリプラーの機能と原理

5-9.トリプラーの構造

5-24.監視室操作盤

5-25.回路定数の計算

5-26.絶縁油の耐電圧試験器



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初版日時: 2018-08-15 (水) 16:47:27
最終更新: 2019-01-15 (火) 19:29:31 (JST) (67d) by hikoichi