彦市   » 依佐美送信所(改訂9版) » 運転・保守

昭和4年当時の産業実状を想定して、この依佐美送信所の運転と設備保守業務について考えてみましょう。

以下は筆者の推察でシミュレートしたものです。

(筆者は、高圧・極低温の大型プラントで運転・保守に携わった経験があります)

昭和4年の我が国は大型運搬機械や大型クレーンなどの無い時代でした。

高圧電力や高周波電力に使用できる計測器も限られていました。

熱電対型の電流計とコンデンサ型の電圧計が使用されたと思われます。

こんな実状では、正確なデータの採取が困難であるため、設備稼働時の測定記録類も少なかったと思われます。

運転員は、厳しい作業環境の中で、操作盤の僅かな指示計器類と経験に頼って運転維持を実現していました。

回転機械からの発熱と振動音で、室温は外気温度プラス15度ほどに上昇し、騒音が100フォンを超える悪条件であったと思われます。

可聴周波数帯の5,400Hzの振動音や可聴周波数帯を僅かに超えた 17,400Hz の電磁波に曝され、しかも、500KWの高出力ですから、アンテナ下では頭髪が立つほどの強電界でした。

 

高価な機械設備であり、国家の威信が懸った送信所でしたから、稼働時にあっては、精神的な負担も大きかったでしょう。

勿論、事前の技術教育や運転操作指導書が整えられてはいたでしょうが、操作を間違えれば故障に繋がります。

起動時は、負荷の最も少ない状態で、順次に回転機械を起動します。

例えば、起動準備(3分)→ 誘導電動機と直流発電機(3分)→ 直流電動機と高周波発電機(1分)→ トリプラー(1分)→ アンテナ出力調整(10分)→ 手動テスト(5分)

このように、起動時間は20分~30分を要したのではないでしょうか。

以下に、起動時の操作を具体的に記します。

送信所が稼働すると1,000KW の高圧電力を消費するので、電力会社の変電所に稼働予定時刻を前もって予告します。

電力会社の水力発電所の発電機を予め起動しておかないと、送電系統の電圧や周波数が低下して、他の需要家に迷惑を及ぼす可能性があるからです。

1。起動準備・・・動力部の運転系統、誘導電動機の起動レバー、直流発電機用の励磁抵抗器の状態、トリプラーとキーイング・チョークの油循環バルブ、自動制御装置の電源投入などの確認作業。

2。補機の運転・・・給水ポンプ、潤滑油ポンプ、送風機、励磁機、など。

3。誘導電動機の起動・・・スイッチ投入して、回転音を聞きながら、水抵抗器のハンドルを回して抵抗値を順次減らして、規定回転数まで上昇させる。

そして、スリップリングの短絡環レバーを操作して、起動用水抵抗器を切り離す。

この状態では、直結の直流発電機は無負荷状態で運転されています。

4。直流電動機の起動

連結用直流電磁開閉器を投入して、直流電動機を起動する。

直流発電機用の励磁抵抗器をハンドル操作して、高周波発電機の運転状態を見ながら、直流電動機の回転数を上昇させて高周波発電機を規定速度にする。

5。トリプラーの起動

トリプラー切替盤の状態を確認して、トリプラー接続用電磁開閉器を投入する。

トリプラー用の励磁機を起動して、出力をトリプラーの起動コイルに接続する。

6。高周波回路の安定を確認

アンテナ出力結合トランスまでの各部状態、発電機の回転数と出力電流、高周波回路の出力電流などの確認。

7。タンク回路の安定を確認

送信待機状態(SPACE時と同じ)であるので、高周波発電機の出力が300KW、高周波回路の出力電流が150A、アンテナ回路の電流が100A 程度となります。

8。手動テスト

送信相手に応じた周波数に調整した後に、アンテナ回路が同調するように調節する。

切換器のハンドルを「MARK」側にして、アンテナ回路のバリオメータコイルの駆動電動機を遠隔操作して、テスト用MARK出力でのアンテナ電流が最大になる位置で固定する。

次に、切換器のハンドルを「LOCAL」側にして、「テスト・キー」を操作して、「送信入力計」の指針変動を確認する。(この手動テストでは、アンテナからの電波放射は僅かです。)

テストが終わったら、切換器のハンドルを「REMOTE」側に戻す。

9。制御動作の確認

上記の手動テスト時に、合わせて各部制御リレーの動作を確認する。

「速度調節用装置」(周波数弁別回路)の調整も行う。

10。自動送信待機状態

これで正常な稼働状態ですが、高周波回路には高圧電気が充電状態となるので、近寄ると感電の危険があります。

送信設備の停止操作は、起動と逆であり、送信待機状態を解除して、直流発電機の励磁電流を減少すれば高周波発電機の回転数が低下します。

次いで、誘導電動機の電源スイッチを切ります。

休止時間の程度により、励磁機、油ポンプ、水ポンプ、送風機などの補機も停止します。

保守作業では、パワーリレーの接点研磨、碍子の点検・清掃、アンテナ支線の点検、回転機の発熱や振動、トリプラーとキーイングチョークの温度などですが、高電圧接近や高所作業を伴うので、緊張する作業が多くあったと推察されます。

鉄塔の頂上部まで登るのに40分を要したそうです。

夏期には電線やワイヤーロープが伸びるので、たるみが大きくなります。

このため、このため、トランシットで鉄塔の垂直度を定期的に測定していました。

夏期に再調整する必要が生じると、炎天下の過酷な作業となります。

鉄塔に落雷すると避雷器が動作するので、落雷の翌日には、避雷器の点検・補修が必要でした。

日常点検では、アンテナ線と支線の状態、受電設備、給水・給油配管の漏れ、鉄塔基底部などが点検要所でした。

福利厚生面では、敷地内に社宅があって恵まれた環境であったと推察します。

機密漏洩防止の為でもあり、チームワーク強化にも繋がったと思われます。



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初版日時: 2018-08-18 (土) 19:31:35
最終更新: 2019-03-22 (金) 13:47:36 (JST) (2d) by hikoichi