彦市   » 依佐美送信所(改訂7版) » トリプラーの機能と原理

[目次]

A. なぜトリプラーが設置されたか

B. 磁気飽和状態の励磁電流

C. トリプラー内での誘起電圧波形

 

A. なぜトリプラーが設置されたか

昭和元年 (1925年) 当時では、高周波発電機の大型化には設計上の限界がありました。

即ち、遠心力に耐える材料の強度、製作上の問題、輸送上の問題などです。

超長波通信で必要とする17,442 Hz で500 KWのアンテナ出力を得るには、600 KVAの高周波発電機が必要でした。(実機は余裕をとって700KVAでした)

大容量の高周波発電機は、いずれの方式であろうと、周波数と出力からの制約があります。

つまり、回転子の遠心力に耐える強度をもつ構成材料で制約されます。

テレフンケン社では、発電機での出力は目標の3分の1の周波数として、後段のトリプラーとフィルター回路で3逓倍する方式でした。

 

B. 磁気飽和状態の励磁電流

7y44.jpg

上図は、磁気ヒステリシス曲線(B-H 曲線)の代表3例です。

トリプラーでは、H タイプに該当する特性の鉄芯です。

曲線で示す如く、電流による磁力線量の変化は往復で異なる値となって、閉ループを示します。

これをヒステリシスループと呼ばれており、1サイクル当たりの損失エネルギーとなります。

周波数に比例してヒステリシス・ループが繰り返されるので、ヒステリシス損は周波数の関数となり、周波数が高いほど大きな損失となります。

また、温度が高くなるほど磁力が弱くなり、キュリー温度と呼ばれる温度を越えると、磁力自体がなくなってしまいます。

キュリー温度は鉄では770℃ですが、80℃を超えると、急激に磁力が低下すると言われています。

一般に、トランスの鉄芯はヒステリシス曲線の立ち上がりが急峻で、行きと帰りのずれ幅が少ない特性のものが使われます。

これは、ヒステリシス損を出来るだけ少なくして、変換効率を高めるためです。

また、鉄芯には高周波による渦電流損が発生しますが、薄板を積層した構造とすると、渦電流が微小となり、全体の渦電流損が少なくなります。

また、ヒステリシス曲線の波形が左右対称に近いものほど、第3高調波の割合が高くなると言われています。

この状態での誘起電圧波形は、90度遅れた基本波に第3高調波、第5・第7・第9・第11などの高次高調波が重なった波形となります。

電流をi、コイル巻数をN、コイルの磁気抵抗をR、磁束をφとすると、磁気抵抗Rは磁束φに反比例する次式が成り立ちます。

iN = Rφ・・・(1)

コイルに角周波数ωの正弦波電圧を印加すると、磁束φも角周波数ωの正弦波となります。

φ = Φsinωt・・・(2)

磁気飽和状態では、電流が増加しても磁束が頭打ちとなり、磁束の増加抑制に相当する割合でRが大きくなります。

初期状態のコイルの磁気抵抗値をRoとすると、

磁気抵抗Rは磁気飽和によって次式のように変化すると考えられます

R = Ro + R'cos(2ωt)・・・(3)

ここで、R' はヒステリシス特性によって定まります。

(2)と(3)を(1)式に代入すると

iN = {Ro + R'cos(2ωt)}(Φsinωt)

= RoΦsinωt + {R'cos(2ωt)}(Φsinωt)

= RoΦsinωt + (R'Φ){cos(2ωt)}(sinωt)

= RoΦsinωt + (R'Φ){1 - 2sin2 (ωt)}(sinωt)

= RoΦsinωt + (R'Φ){(sinωt) - 2sin3 (ωt)}

= RoΦsinωt + (R'Φ/2){2(sinωt) - 4sin3 (ωt)}

= RoΦsinωt + (R'Φ/2){2(sinωt) + (sin3ωt - 3sinωt)}

= RoΦsinωt + (R'Φ/2){sin(3ωt) - sinωt}

したがって

i = [RoΦsinωt + (R'Φ/2){sin(3ωt) - sinωt}] / N・・・(4)

となって、右辺第2項に角周波数 3ω、即ち、第3調波電流が現れます。

また、(4)式から、

第3高調波が基本波Roφsinωtに対して正相になっていることが理解出来ます。

磁気抵抗Rの(3)式は、

ヒステリシス曲線の原点において磁気抵抗は最も小さく(透磁率最大)、

そこから徐々に上昇して、磁気飽和すると磁気抵抗が最大(透磁率最小)になるような正弦波として近似したものです。

磁束が(2)式に従って変化する過程で、一般のトランスでは R ≒ Ro ですが、磁気飽和する使用領域では、

磁気抵抗 R は平均磁気抵抗 Ro に2倍の角周波数成分が重畳した変化をします。

(3)式は近似式であり、さらに精度を上げると

R = Ro + R'cos(2ωt) + R''cos(4ωt) + R'''cos(6ωt)・・・
として近似ことができますが、

Ro>R'>R''>R''' となる性質があるので、

R'cos(2ωt)成分に起因して生じる第3調波成分が最大となるわけです。 

実際の波形は、左右対称ではありません。

これは、ヒステリシス特性により、鉄芯に残留磁気が生ずるためです。

また、磁気飽和状態では、インダクタンスが空芯コイルに近い状態となり、歪波の無効電流が大量に発電機へ還流します。

この為に、飽和磁束によるヒステリシス損だけでなく、コイルの抵抗損失が発生して熱に変換されるので、トリプラー内部のオイルが高温になります。

そして、発電機から見れば、トリプラーに70KW近くの無駄な電力を供給していることになります。

 

磁束と磁気電流(磁束密度の変化により発生する)は90度遅れた位相です。 

従って、入力電圧に対しては、磁気電流による電圧が180度遅れた位相となります。

 
 

C. トリプラー内での誘起電圧波形

7.PNG

起動前は、高周波発電機出口からの高周波回路及びトリプラーコイル自体並びにトリプラー2次側回路のリアクタンス値が大きいので、高周波発電機の負荷電流は僅かです。

起動して過励磁状態になると、トリプラーコイルのリアクタンス値が空芯状態近くの値まで低下するので、1次側の回路が基本波に同調してトリプラーに電流が大量に流れます。

そして、トリプラー内では、第3調波を含む歪波形の電圧が発生します。

この電圧波形は、基本波に第3調波と第5調波を加えた合成電圧波形に近いもので、上図の台形をした「負荷時の波形」であり、トリプラー入力電圧と実効値が等しい電圧です。

また、トリプラーの2次側では基本波の第3調波が共振状態となるように調整されているので、基本波の3倍の周波数成分だけが低いインピーダンス値をなります。

結果として、トリプラーの2次側では、入力の基本波に対して180度の位相差を持つ3倍周波数の電圧・電流が大量に発生して、発電機の周波数が3倍に変換された事になります。

これが、3逓倍回路の動作であり、この状態が稼働中維持されます。

トリプラー内では、飽和磁束によるヒステリシス損失とコイルの抵抗損失が発生して熱に変換されるので、トリプラー内部のオイルが高温になります。

これは、発電機から見れば、トリプラーに60KW近くの無駄な電力を供給していることになります。

磁気飽和とは、鉄芯の材質と断面積で定まる一定の励磁電流を超えると、鉄の分子が全て磁気整列した状態となり、励磁電流が増加しても磁束が増加しなくなる現象です。

このトリプラーの最低磁気飽和電流値は約100Aです。

 
 

[参考にしたURL]

http://www.ne.jp/asahi/shiga/home/Lecture/ferromagnet.htm

強磁性体の性質

https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1081108390

鉄心入りコイルに正弦波交流電圧を加えた場合、流れる電流の高調波の大きさはなぜ 第3調波が最大なのでしょうか?



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初版日時: 2018-08-17 (金) 20:38:13
最終更新: 2019-01-19 (土) 16:23:21 (JST) (3d) by hikoichi