彦市   » 依佐美送信所(改訂5版) » トリプラーの機能と原理

[目次]

A. なぜトリプラーが設置されたか

B. 磁気飽和状態の励磁電流

C. トリプラー内での誘起電圧波形

 

A. なぜトリプラーが設置されたか

昭和元年 (1925年) 当時では、高周波発電機の大型化には設計上の限界がありました。

即ち、遠心力に耐える材料の強度、製作上の問題、輸送上の問題などです。

超長波通信で必要とする17,442 Hz の500 KW出力を得るには、600 KW程の高周波発電機が必要でした。

大容量の高周波発電機は、いずれの方式であろうと、周波数と出力からの制約があります。

つまり、回転子の遠心力に耐える強度をもつ構成材料で制約されます。

テレフンケン社では、発電機での出力は目標の3分の1の周波数として、後段のトリプラーとフィルター回路で3逓倍する方式でした。

 

B. 磁気飽和状態の励磁電流

7y44.jpg

上図は、磁気ヒステリシス曲線(B-H 曲線)の代表3例です。

トリプラーでは、H タイプに該当する特性の鉄芯です。

曲線で示す如く、電流による磁力線量の変化は往復で異なる値となって、閉ループを示します。

これをヒステリシスループと呼ばれており、1サイクル当たりの損失エネルギーとなります。

周波数に比例してヒステリシス・ループが繰り返されるので、ヒステリシス損は周波数の関数となり、周波数が高いほど大きな損失となります。

また、温度が高くなるほど磁力が弱くなり、キュリー温度と呼ばれる温度を越えると、磁力自体がなくなってしまいます。

キュリー温度は鉄では770℃ですが、80℃を超えると、急激に磁力が低下すると言われています。

一般に、トランスの鉄芯はヒステリシス曲線の立ち上がりが急峻で、行きと帰りのずれ幅が少ない特性のものが使われます。

このヒステリシス曲線で囲まれる面積が磁気損失であり、ヒステリシス損と呼ばれています。

また、鉄芯には高周波による渦電流損が発生しますが、薄板を積層した構造であると、渦電流損が少なくなります。

ヒステリシス曲線の波形が左右対称に近いものほど、第3高調波の割合が高い出力が得られると言われています。

この状態の誘起電圧波形は、90度遅れた基本波に第3高調波、第5・第7・第9・第11・・・高次高調波が重なった波形となります。

電流をi、コイル巻数をN、コイルの磁気抵抗をR、磁束をφとすると、磁気抵抗Rは磁束φに反比例するので、次式が成り立ちます。

iN = Rφ・・・(1)

コイルに角周波数ωの正弦波電圧を印加すると、磁束φも角周波数ωの正弦波となります。

φ = Φsinωt・・・(2)

磁気飽和状態では、電流が増加しても磁束が頭打ちとなり、Rが大きくなります。

初期状態のコイルの磁気抵抗値をRoとすると、

磁気抵抗Rは磁気飽和によって次式のように変化すると考えられます

R = Ro + R'cos(2ωt)・・・(3)

ここで、R' はヒステリシス特性によって定まります。

(2)と(3)を(1)式に代入すると

iN = {Ro + R'cos(2ωt)}(Φsinωt)

= RoΦsinωt + {R'cos(2ωt)}(Φsinωt)

= RoΦsinωt + (R'Φ){cos(2ωt)}(sinωt)

= RoΦsinωt + (R'Φ){1 - 2sin2 (ωt)}(sinωt)

= RoΦsinωt + (R'Φ){(sinωt) - 2sin3 (ωt)}

= RoΦsinωt + (R'Φ/2){2(sinωt) - 4sin3 (ωt)}

= RoΦsinωt + (R'Φ/2){2(sinωt) + (sin3ωt - 3sinωt)}

= RoΦsinωt + (R'Φ/2){sin(3ωt) - sinωt}

したがって

i = [RoΦsinωt + (R'Φ/2){sin(3ωt) - sinωt}] / N・・・(4)

となって、右辺第2項に角周波数 3ω、すなわち、第3調波電流が現れます。

また、(4)式から、

第3高調波が基本波Roφsinωtに対して正相になっていることが理解出来ます。

磁気抵抗Rの(3)式は、

ヒステリシス曲線の原点において磁気抵抗は最も小さく(透磁率最大)、

そこから徐々に上昇して、磁気飽和すると磁気抵抗が最大(透磁率最小)になるような正弦波として近似したものです。

磁束が(2)式に従って変化する過程で、一般のトランスでは R ≒ Ro ですが、磁気飽和する使用領域では、

磁気抵抗 R は平均磁気抵抗 Ro に2倍の角周波数成分が重畳した変化をします。

(3)式は近似式であり、さらに精度を上げると

R = Ro + R'cos(2ωt) + R''cos(4ωt) + R'''cos(6ωt)・・・
として近似ことができますが、

Ro>R'>R''>R''' となる性質があるので、

R'cos(2ωt)成分に起因して生じる第3調波成分が最大となるわけです。 

実際の波形は、左右対称ではありません。

これは、ヒステリシス特性により、鉄芯に残留磁気が生ずるためです。

また、磁気飽和状態では、インダクタンスが空芯コイルに近い状態となり、歪波の無効電流が大量に発電機へ還流します。

この為に、飽和磁束によるヒステリシス損だけでなく、コイルの抵抗損失が発生して熱に変換されるので、トリプラー内部のオイルが高温になります。

そして、発電機から見れば、トリプラーに70KW近くの無駄な電力を供給していることになります。

 

磁束と磁気電流(磁束密度の変化により発生する)は90度遅れた位相です。 

従って、入力電圧に対しては、磁気電流による電圧が180度遅れた位相となります。

 
 

C. トリプラー内での誘起電圧波形

トリプラー内での誘起電圧.jpg

上図は、トリプラー内の誘起電圧波形の説明図です。

左側の回転磁界円は高周波発電機の出力である単相回転磁界です。

トリプラー入力の前段処理でサイン波形の基本波となり、その入力電流を中央に示します。

磁気飽和状態になると、トリプラーのコイルが空芯状態に近くなって大電流が流れます。

磁気飽和とは、鉄芯の材質と断面積で定まる一定の励磁電流を超えると、鉄の分子が全て磁気整列した状態となり、励磁電流が増加しても磁束が増加しなくなる現象です。

この磁気飽和状態では、鉄損コンダクタンス(g0)は一定ですが、並列する励磁サセプタンス(b0)が極端に小さくなって、励磁電流が極端に増大します。

 

従って、高周波発電機の負荷電流は、トリプラー鉄芯の磁気損失分と2次回路の有効電力分の合計電流です。

アンテナ回路が非同調であれば、2次回路の有効電力は僅かですから、磁気損失分の50KW程度です。

この状態でのトリプラー内の誘起電圧は、上図の合成電圧波形です。

これは、基本波に第3高調波と第5高調波を加算して求めたもので、プロットした点を連ねた急峻な台形波に近く、入力電流波形に対して90度遅れています。

入力電圧に対しては180度の位相差を生じます。

従って、単巻変圧器と類似した構造ですが、2次側出力には第3高調波を多く含む歪み波となっています。

 
 

[参考にしたURL]

http://www.ne.jp/asahi/shiga/home/Lecture/ferromagnet.htm

強磁性体の性質

https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1081108390

鉄心入りコイルに正弦波交流電圧を加えた場合、流れる電流の高調波の大きさはなぜ 第3調波が最大なのでしょうか?



トップ   編集 差分 バックアップ 添付 複製 名前変更 リロード印刷に適した表示   ページ新規作成 全ページ一覧 単語検索 最新ページの一覧   ヘルプ   最新ページのRSS 1.0 最新ページのRSS 2.0 最新ページのRSS Atom Powered by xpWiki
Counter: 29, today: 1, yesterday: 0
初版日時: 2018-05-11 (金) 12:52:58
最終更新: 2018-08-02 (木) 08:20:44 (JST) (19d) by hikoichi