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2016年9月4日

 これまで、国際情勢の中心は「米国の覇権」だった。

純粋な2国間紛争に見える各地の問題も、ほとんどが、米国か、その前の覇権国だった英国が絡んでいる。

覇権とは、直接的な占領でないかたちで他国を動かす力のことだ。

冷戦終結から最近まで、世界の覇権は米国が単独で持っていた。

近年は、ロシアや中国、BRICSが、米国から自立した国際体制を構築し、覇権の多極化が進んでいる。

英国やイスラエルは、米政界に影響力を行使し、内側から牛耳って米国の覇権戦略を自国好みのものにねじ曲げ、間接的に世界に影響力を持っていた。

日本は、そのような牛耳り戦略を全く持たず、政府の官僚機構が米国の覇権の代理人として振る舞うことで、政治家(国会)より官僚が強い「官僚隠善独裁体制」を終戦以来続けてきた。

 覇権や地政学(覇権戦略を考える学問)というと、軍事や外交、石油利権争い、民族紛争など政治分野であると思われがちだが、私から見るとこれは大間違いだ。

覇権に関して最も重要な部分は、基軸通貨(誰の紙切れ=紙幣が最も価値を持つか)とか、誰が金融や貿易で大儲け(大損)するかといった、経済の分野である。

最近、ロシアが中東で影響力(覇権)を拡大できているのは、中国がロシアを経済面で支えているからだ(見返りにプーチンはロシア極東を中国人が経済占領することを容認した)。

欧米がロシアを経済制裁しても、ロシアは中国に石油ガスなどを売れるので、その金で露経済を回し、シリアに軍事進出できている。

米国が、中露の経済的な結びつきを事前に切断できていたら、ロシアは経済難に陥り、今ごろエリツィン時代の混乱に逆戻りしていたはずだ。

なぜか米国はこの10数年、中露が経済結束を強めることをずっと看過・黙認していた(なぜかを問い詰めていくと「隠れ多極主義」に行き着く)。

 経済面の米覇権は、ドルが基軸通貨であり、米国債が世界的に最良の備蓄手段である体制(金融覇権体制)を大黒柱としている。

ドルは戦後、金本位制(ドルの総発行量が金地金の保有量に縛られている)を前提に、世界で唯一の基軸通貨になったが、1971年の金ドル交換停止(ニクソンショック)でいったん破綻した。

だが、当時の他の諸大国である英仏独日など(先進諸国)は、どこも米覇権の崩壊を望まず、ドルが唯一の基軸通貨であるブレトンウッズ体制の継続を希望した(ソ連や中国はもともとこの体制に入っていない)。

そこで米国は、金本位制を捨て、代わりに覇権国である米国に対する信用を担保にドルを刷り、ドルと他の諸通貨との為替が乱れたら、日独英仏などの当局(G7)が協力して為替を安定させる体制を、85年のプラザ合意で正式に開始した。

 同じ年に米英が金融を自由化し、ドルが信用を担保にどんどん発行できるようになった新体制を真似て、民間の債券も、企業の信用や物件の価値を担保にどんどん発行できるようになった。

企業間の貸付や住宅ローンなどの債権を債券化して売ることで、銀行からの借入しかなかった従来に比べ、資金調達が飛躍的に容易になった。

この「債券金融システム」の導入によって、90年代の米国(米英)経済は金融主導の黄金期となり、米国の覇権体制は経済主導に転換した。

 企業の価値・信用や物件の価値は、相対的なものであり、価値がバブル化しやすい。

これからはインターネットだと騒がれ出すと、よく見ると儲かる当てがない新興のネット関連企業の債券や株が過剰に売れてITバブルに発展し、00年に起きたようにバブル崩壊する。

だが同時に、債券が破綻した場合の損失を補填する債券破綻保険(CDS)など、破綻の拡大を防げる派生商品(デリバティブ)の仕掛けも作られ、バブル拡大の長期化に貢献した。

しかし、CDSの保険をかけておけば大丈夫という過信が広がり、返済できる所得もない貧しい人に貸した住宅ローンの債権を束ねて債券化した「サブプライムローン債券」が大量発行された。

それが07年夏からバブル崩壊し、不動産担保債券の全体に破綻が拡大すると、救済措置のはずのCDSも保険金を払い切れない限界が露呈し、債券やCDSを扱っていた投資銀行が次々と行き詰まり、08年のリーマン危機になった。

金融を蘇生せず延命させるだけのQE

 リーマン危機後、米国中心の世界の債券金融システム(社債と派生商品の仕掛け全体)は、信用が失墜したままで、蘇生が部分的でしかなく、全体的にはまだ死んでいる。

しかし、マスコミなど世の中の常識では、リーマン危機を乗り越えたことになっている。

実態は、リーマン後、米当局(連銀、FRB)が、ドルを増刷して債券金融システムに資金を注入するQE(量的緩和策)によって相場を底上げすることで、あたかもシステムが蘇生したかのように見せる策が続けられている。

米連銀がQEをこれ以上続けると資産状態(会計勘定)が不健全化するところまできた14-15年からは、日本と欧州の中央銀行がQEを肩代わりしている。

 もともと、あらゆる債権を担保に債券化して儲けられる米国中心の民間の債券金融システムは、米国の覇権を担保にドルをどんどん発行し、米国債が資産の備蓄手段として世界的に尊重されることで米国が儲け、覇権を維持できるという、プラザ合意で形成された金融覇権システムを真似て、民間に適用したものだ。

リーマン危機で民間の債券金融システムが崩壊すると、米当局(連銀)は、米国の覇権を維持するためのドルを大量発行するシステムを、民間金融を延命させるために発動した。

これがQEの実態だ。

 ここで重要なのは、QEによって民間の債券金融システムが「蘇生」するのでなく「延命」しているだけということだ。

QEをやめたら、債券相場は再び下落(金利上昇)し、債券破綻が広がって金融危機が再発し、債券金融システムが再び崩壊する。

米連銀は、バブル状態の民間の金融システムを「延命」させるために、米覇権維持のための大切な余力を使いきり、自分がもうやれないので日欧にQEを肩代わりさせるところまでやっている。

 金融は、90年代以降の米経済の最大の柱だ。米経済の大黒柱を潰すわけにいかないので、米連銀が民間金融の維持に全力を尽くしたのだと考えることも、できなくはない。

しかし、民間金融を長期的に助けるなら、延命でなく、縮小均衡的な軟着陸を誘導すべきだった。

実際に米連銀や日欧の中央銀行群がやってきたことは、債券市場を縮小させるどころかバブルを膨張させ、国債からジャンク債までの相場を、明らかに高すぎる状態にしている。

 社債の相場が高すぎることは、社債発行元の企業が行き詰まって債券が破綻し、企業の資産を売却して債券の価値の一部だけが投資家に返済される「リカバリー」の比率を見るとわかる。

米国のジャンク債(高リスク債)のリカバリー率は、14年まで40-50%台だったが、15年は25%に下がり、今年は10%に下がっている。

14年までは、ジャンク債の相場が、企業の実際の資産価値の2倍強だったものが、15年は4倍に、今年は10倍になっている。

中銀群が全体としてのQEの総額を増やすほど、その資金でジャンク債が買われ、債券バブルを膨張させている。

 おまけに日銀は、円を増刷した資金で株式(ETF)を大量に買い支え、株価をつり上げている。

欧州中銀も同様の株式の買い支えを検討していると報じられている。

米連銀は法律の定めに従い株式を買っていないが、企業の自社株買いが奨励されており、米日欧の中銀がQEで社債相場をつり上げ、企業は低利で起債して簡単に巨額資金を作り、自社株を買って株価をつり上げている。

株式は、債券に比べ、当局が面倒を見る必要がない分野だ。

債券は、ジャンク債の崩壊を看過すると国債の信用失墜につながりかねないが、株式は民間のバクチであり、いざとなったら株価の暴落を放置して資金を国債に流入させ、国債を守ってもかまわない。

それなのに中銀群は日銀を筆頭に、通貨を過剰発行して株価までつり上げている。

 中銀群のリーマン後の金融延命策には、マイナス金利やゼロ金利の政策もある。

これらは、低リスクな短期金利を極端に下げることで、高リスクな長期の国債金利や社債・ジャンク債の金利までの全体を引き下げ、債券のバブル崩壊(ジャンク債の金利が高騰し、低リスク債に波及する)を防ぐ債券の延命策である。

これにより債券は延命するが、資本主義の根幹に位置する、高金利な高リスク債と低金利な低リスク債の間の金利差(利ざや)が極端に減り、資本主義の原理が潰されてしまっている。

「ベニスの商人」以来、投資家や金融機関は、利ざやで稼いでいる。

マイナス金利は、全く不健全な策だ。

健全な資本主義を育てるのが任務なはずの中央銀行が、資本主義を破壊している。

しかも、マスコミはそれを指摘しない。

馬鹿げている。

 いまや債券も株も金利も、民間投資家の需給で動いていない。

中央銀行が手がける民間金融システムの延命策がすべてを飲み込み、マスコミや専門家は誰もそれを指摘せず、うわべだけ平常が保たれ、市民の多くは何も知らないが、実際には、中銀群が延命策をやめたら債券金利が急騰し、株価が暴落してリーマン危機より大きな金融危機が起きる。

中銀群は、この延命策をやめたり縮小することができない。

日本も米国も生活水準が第三世界並みに下がる

 だがその一方で、中銀群はこの先あまり長く金融延命策(超緩和策)を続けられない。

日欧の中銀は、すでに買える債券をほぼ買い尽くしており、QEの拡大が困難だ。

マイナス金利も金融機関の利ざやを奪って経営難を加速するので、もうあまり深掘りできない。

延命策を拡大できなくなると、金融危機が再発しやすくなる。

リーマン危機の時は、中銀群に大きな救済余力があったが、次の危機は、その余力を全部使い果たした末に起きる。

危機が再発すると、すべての消防車のガソリンが切れた状態で起こる大火のように、消すすべがなく、前代未聞のひどい金融危機になる。

 中銀群の大きな救済余力は本来、自国の通貨や国債を安定させるために用意してあったものだ。

次回の金融危機は、米国債や日本国債の金利高騰(価値急落)を引き起こすかもしれないが、その場合でも、中銀群には、自国の国債の急落を阻止・緩和する力が失われている。

すでに述べたように、プラザ合意以降の米国覇権の本質は金融覇権であり、その基盤は、米国債の強さや、ドルの基軸通貨としての信用力にある。

米国債の金利上昇(価値下落)は、米国の金融覇権の崩壊を意味する。

 米国発の止めるすべのない金融危機が進むと、ドルも基軸通貨としての国際信用力を失う。

米連銀は、リーマン危機後に死に体が続く民間金融を延命させるために、米国の覇権を自滅させてしまうことになる。

米国の覇権は、03年のイラク侵攻という軍事面の自滅的な策を経ても潰れなかった。

だが、きたるべき金融危機は、米国債の金利高騰、ドルの基軸性喪失、金融主導の米国覇権の崩壊まで引き起こす可能性が強くなっている。

 先進諸国の外側では、すでにBRICSが人民元など自国通貨での国際決済システムを構築している。

新興諸国は、ドルが基軸通貨でなくなっても、代わりの新システムがあるので何とかなる。

中国は11年まで、毎年の対米貿易黒字の半分以上の額を米国債購入にあてていた。

中国が米国の財政赤字を埋めてくれていた。

だが、米国が中国敵視を強めた11年以降、中国は米国債を全く買わず、むしろ売る傾向に転じ、貿易黒字の資金は金地金などの購入にあてられている。

ドルの基軸性が低下するほど、金地金が代わりの備蓄対象として台頭する。

中国は、米国の金融覇権の崩壊を予期している。

 中国が買わなくなった分の米国債は、日銀などのQEで作られた資金による購入で埋められている。

米国覇権の崩壊を予期して中国が忌避するようになった米国債を、代わりに日本などが買い支えている。

中国は、米国覇権の崩壊への対応を準備しているが、対米従属の日本は、最後まで自国の力をふりしぼり、米国覇権の崩壊を食い止めようとしている。

しかし、もう日銀は弾切れだ。

いずれ米日欧とも力尽き、日本などが持っている米国債は紙切れになり、中国が持っている金地金は価値が高騰する。

中国は台頭し、日本は衰退する。

この事態を回避するのは、日本にとってしだいに困難になっている。

 中国はすでに、政府高官が株価の下落を扇動している。

すでに大きく下がった中国の株は、きたるべき米国発の金融危機に際し、もうそれほど下がらない。

やばいのは先進国の方だ。

株価の下落は、すでに日本の公的年金基金や、米国の年金基金に大きな損失をもたらしている。

この先、大きな金融危機が起きると、年金基金の損失は何倍にもなる。

年金を受け取れず、貧困層に転落する「乞食老人」たちが、日本でも米国でも急増する(すでに増えている)。

公的年金に株式を大量購入させる策はアベノミクスの一環だ。

さすが日本国民の多数が選んだ名宰相、安倍だけのことはある。

 金融危機の再燃は、リーマン後の世界不況の再発を生む。

特に、金融と財政(国債)の面で大打撃を受ける日本や米国の経済破綻がひどくなる。

日本も米国も、市民の生活水準が「第三世界」並みに下がるだろう。

日本の生活水準が、中国より低くなりかねない。

すでに平均的な日本人像は、年収500万円の正社員から、年収250万円の派遣スタッフに下がっている。

年収の低下を受け、25-44歳の男性で、結婚したい(結婚できる)と考える人の割合が、昨年の67%から、今年は39%に急低下している。

さらなる少子高齢化が不可避だ。

 金融危機が再発すると、米日欧とも経済が大幅に悪化し、相対的に新興諸国に追いつかれ、「先進国」はまるごと「先進」でなくなる。

「さよなら先進国」である。

そのような中で、米国覇権が崩壊し、多極化が進む。

中銀群の延命策は、いずれ必ず限界に達し、その際に必ず金融危機が再燃する。

だから、ここに述べたような非常に暗い未来像は、非常に高い確率で具現化する。

将来は明るくなければならないマスコミ記事しか見ていない読者は「悲観的な将来像など読みたくない」「暗い話を書く前に回避策を考えろ」と言うかもしれない。

だが、現実的な回避策はないし、明るい未来が具現化する可能性はかなり低い。

まず、この現実を受け入れるしかない。

米連銀が無理して9月に利上げするかも

 日欧中銀はすでに弾切れだが、今秋、米連銀に頼まれてもう一回、追加緩和の無理をさせられる可能性がある。

10日前の記事「いずれ利上げを放棄しQEを再開する米連銀」では、もう米連銀の利上げがなさそうな感じで書いたが、あれを配信した直後、金相場が下落傾向に入った。

昨年12月の前回の米連銀の利上げの前にも、11月末から金相場が下落させられている。

ドルの対抗馬である金地金の相場を先物を使って引き下げ、日欧中銀に追加の緩和策をやらせた上で、米連銀が9月か12月に0・25%の利上げを行う可能性がある。

 米金融界では「米大統領選挙前の利上げはない。

やるなら選挙後の12月」と言われている。

利上げは景気にマイナスなので株価が下がり、株安は現職大統領の党でない方の候補(今回は共和党のトランプ)を有利にするというのがその理由だ。

だが今の金融は通常と異なる。

株価は、中銀群によるのQEのさじ加減でどうにでもなる。

金相場の動向からは、9月に利上げがありうる感じだ。

投資家は「景気が悪いので利上げはない」と見る人が多いが、米企業(MSやコカコーラ)などは8月に急いで起債し、秋の利上げの前に安い金利で資金調達している。

9月8日の欧州中銀の会合、9月末の日銀の政策委員会で、無理を押して追加の緩和策をやるかどうかが見ものだ。

 欧州中央銀行の上層部では、QEやマイナス金利など超緩和策の不健全さを主張する人が増えている。

「中央銀行の中央銀行」であるBISも、もう超緩和はやめた方が良いと警告している。

だが、やめたら覇権崩壊だ。

G7など先進諸国の中央銀行のネットワークは米国の覇権維持装置であり、覇権を自ら放棄することにつながる超緩和策に踏み切るとは考えにくい。

日銀は7月末、緩和策の追加を最小限しかやらず、米連銀の意に従わなかったが、9月末もその姿勢を貫けるかどうかわからない。

 米連銀が利上げして短期金利を0・5%にしても、それで金融危機を防げるわけではない。

街中が燃えている前で消火器2本(1本あたり0・25%)という感じだ。

それでも米連銀が利上げをめざすのは、利上げをあきらめたとたんに、事態が金融危機にぐんと近づいてしまうからだ。

利上げをあきらめ、日欧の緩和策が敗退し、米連銀がQEを再開し、その弾が尽きる過程で金融危機になり、米覇権が崩れるのが「死に至るシナリオ」だ。

そのシナリオに入ること、「死」を拒否するには、日欧に無理をさせつつ米連銀が利上げを強行するか、少なくとも利上げをあきらめない姿勢を貫くしかない。

 しかし何度も言うが、これは延命の時間稼ぎでしかない。

この先、無理に無理を重ね、意外と長く(2-3年?)延命できるかもしれないが、バブルを膨張させるだけの今の延命策が、最終的に金融システムを蘇生ないし軟着陸させていくことは、構造的に考えて、ありえない。

いずれ大崩壊が起こり、多極化が加速する。米国の延命策に最後までつきあうであろう日本は、大好きな米国とともに貧困になる。


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初版日時: 2017-10-18 (水) 22:16:54
最終更新: 2018-04-13 (金) 18:51:13 (JST) (109d) by hikoichi